アイバンクだより Vol.37 |
透明な角膜を取り戻すために |
愛媛大学医学部 眼科学講座 池川 和加子 |
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私は現在愛媛大学附属病院で眼科医として勤務しており、主に角膜疾患を専門に診療を行っています。当院には角膜専門医は複数人在籍しており、様々な角膜疾患を診療しております。毎週火曜日の角膜専門外来には、県内のみならず、香川県、徳島県、高知県、岡山県、広島県など県外からも患者様は多数来院されます。
角膜は一般に「黒目」と呼ばれていますが、直径1センチ程度、厚さは1mmの半分程度の透明な組織です。角膜が透明であることは良好な視力を維持することために必須となります。しかし、怪我で角膜に穴があいてしまった場合や、感染症によって角膜が濁ってしまった場合はたちまち視力が低下してしまいます。感染症と一口に言っても、細菌、ウイルス、真菌(かび)、原虫(アカントアメーバ)と多岐にわたり、ほとんどの場合は点眼等の薬物治療で治癒していきますが、中には治癒後角膜に混濁が残ってしまうことがあります。こうなると点眼治療だけでは元の透明な角膜を取り戻すことができず、最終手段として角膜移植を選択することとなります。しかしながら、手術を希望される患者様に対して県内及び全国的にも提供される角膜数が慢性的に不足しているのが現状です。当院ではその不足分を補うために、アメリカのアイバンクから定期的に角膜を譲ってもらい角膜移植を行っています。
角膜移植は角膜全層を移植する「全層角膜移植」と、角膜の内層のみを移植する「角膜内皮移植」があります。原因疾患によって術式を選択し、手術時間は約1時間から2時間程度になります。移植した角膜は術後徐々に生着し透明になって視力が回復していきますが、残念ながら感染症や移植した角膜への拒絶反応等の合併症が起こると角膜の透明性を失って視力が低下してしまいます。退院後は定期的に外来に通院していただき、視力に変化はないか、角膜の透明性は維持できているか、感染症や拒絶反応は起きていないか等、慎重に経過をみていきます。「今日も角膜は透明ですよ。」とお話すると、移植を受けられた患者様は「よく見えるようになって本当にありがたいです。大事にしないといけませんね。」と話されます。透明な角膜は患者様の生活の質を向上させ、生きることへの意欲も沸かせているように感じます。
角膜移植という治療は、眼科移植医だけでは行えません。角膜を提供してくださる方々とそれを橋渡しするアイバンクの協力が必要不可欠であり、たくさんの方々に支えられて角膜移植という治療は成り立っていると考えております。一人でも多くの患者様に光を届けることができますように、今後も皆様のご支援を賜りますようお願い申し上げます。そしてこれからも我々は、患者様のよりよい視力のためにと角膜を提供してくださった方とそのご家族の崇高な御意志に少しでも応えることができるように、また、移植した角膜が患者様のもとで一日でも長く透明でいられるように、日々の診療に努めて参ります。 |
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