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アイバンクだより Vol.29
患者さんに光を届ける角膜移植医としての務め
愛媛大学医学部眼科学講座 助教 坂根 由梨
 現在私は愛媛大学医学部附属病院に勤務しております。当院には角膜疾患を専門とする医師が複数在籍しており、火曜日の角膜専門外来を中心に、愛媛県のみならず香川県や岡山県など近隣の県からも角膜疾患の患者さんがたくさん受診されています。そのなかには、日常生活に不自由を感じるほど視力が低下して、角膜移植を行わなければ視力回復が望めない方もおられますが、現状としては患者さんの数に対して県内または国内での提供角膜数はまだまだ不足している状態であり、困っておられる患者さんにも、まずは移植リストに登録して手術の順番をお待ちいただいている状態です。そのため愛媛大学では提供角膜の不足を補うために、アメリカからも定期的に角膜を輸入して手術を行っております。

 ここ約10年間に愛媛大学で行われた角膜移植症例について調べますと、原因疾患として最も多いのは水疱性角膜症という病気で全体の約57%を占めていました。これは角膜の内皮細胞という角膜の最も内側にある細胞が少なくなってしまう病気です。内皮細胞には主に角膜から余分な水を汲み出すポンプのような働きがあり、角膜の透明性を一定に保っています。この内皮細胞が減少して機能不全を起こすと、角膜全体が腫れて濁ってしまい視力が低下してしまいます。治療のためには角膜移植で健康な内皮細胞を移植する必要があります。

 この水疱性角膜症で私が執刀させていただいた患者さんに、80代後半の女性がおられました。とてもお元気な方でしたが、ご高齢であることから「もう年だし角膜移植なんていう恐ろしげな手術は…」と最初は躊躇されておられました。しかし段々と視力低下が進み、一人暮らしでの家事や買い物に不自由を感じるようになられ、いよいよ手術を決心されました。水疱性角膜症では、古くから全層角膜移植という角膜を直径7〜8mmの円形に切り取って角膜全体を入れ替える手術が行われていましたが、近年では提供角膜の内皮層を薄く切り取って小さな切開創から目の中に入れ、空気の力で角膜の内側に接着させる角膜内皮移植という方法も行われるようになってきました。空気の力で接着させるので術後しばらく仰向けで安静に寝ていてもらう必要があり、場合によっては上手く接着せずに剥がれてしまうことがあるため、術後数日は要注意で観察しなければいけない手術でもありますが、全層角膜移植と比べて創口も小さく合併症や術後の角膜乱視が少ないという利点があり、術後の管理なども考えて水疱性角膜症ではこの術式が選択されることが増えてきています。

 この方にも全層角膜移植と角膜内皮移植のメリットとデメリットを説明し、内皮移植を行うこととしました。幸い術後経過は良好で移植片の接着も良く、術後10日ほどで退院されましたが、術前よりかすみが減って色もハッキリしてきたと喜ばれていました。その後も順調に回復され、術後1か月の診察時には、きれいにお化粧されて服装も見違えるほど色鮮やかになっておられました。調子よさそうですねと声をかけると、「私はもう年だから、見えんようになって好きなことも出来んようになっても仕方がない、諦めるしかないと暗い気持ちになっとったけど、思い切って手術して見えるようになってきたら、何か気持ちも体も軽くなってきたんよ」と楽しそうに話されていました。見えるということは、日常生活だけでなく気持ちの面でもとても大事なことなのだなと改めて感じさせられた症例でした。

 角膜移植は角膜を提供してくださる方と、システムを支えるアイバンクの協力なしには成り立ちません。少しでも多くの患者さんに光を届けられるよう、これからも皆様の温かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。我々角膜移植医も、ご献眼くださった方とご遺族のお気持ちにお応えできるよう、適切な術式選択や術後のしっかりしたフォローで、患者さんのより良い見え方がより長く続くように努めてまいりたいと思います。