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アイバンクだより Vol.28
角膜移植術の最善の方法の選択と術式進歩への貢献
愛媛大学医学部眼科学教室 講師 井上 智之
 現在、私は愛媛大学医学部付属病院に勤務しています。角膜の障害により機能しなくなった病的状態において、角膜移植は唯一無二の最終的な外科的治療法として用いられるようになって、ほぼ100年の歳月が流れていますが、先人の偉大な角膜専門医の努力により、角膜移植術は現在においても進歩を続けています。その一端として、近年、病的部位の存在位置が術前に明らかになることで、手術による患者さんの負担をより少なくする目的で、角膜の障害の存在する部分が特定される場合に、病変部のみを移植する手術ができるようになってきましたので、ご紹介したいと思います。

 角膜の構造は、表面から上皮層、実質層、内皮層の大きく3つの構造から成り立っています。外界からのバリアとして働いている上皮層は、約10%の厚みで、生まれ変わりを繰り返しています。実質層は角膜全体の90%を占めていて、規則正しいコラーゲンの配列になっています。最も内側に1層だけで存在する内皮細胞層は主に水を汲み出すポンプとして機能しており、角膜全体の透明性を維持する働きをしています。角膜移植の手術方法を考えるとき、角膜のどこに病的部分が存在するかが問題になります。

 角膜混濁などの障害が角膜全層に及んでいる場合は、角膜の中央部の7〜8mmの角膜の全層を交換する全層角膜移植が選択されます。その名のように角膜上皮、角膜実質、角膜内皮の3層全てを移植によって交換する方法で、古くから行われており、現在も角膜移植手術の中で占める割合が最も高い手術です。全層移植は角膜を全て透明な部分と交換するので、手術中の安全性と術後の拒絶反応が問題となります。

 次に部分的な病的状態として、表層性の角膜混濁、つまり、角膜実質の比較的浅い部位のみに濁りが存在し、内皮層が正常な場合には、表層角膜移植が選択されます。また角膜穿孔に対しても穿孔部を被覆するために本術式を選択しますが、表層角膜移植後の視力改善度は全層角膜移植に比較して良くないことがあります。しかし、術中の安全性や、内皮細胞を移植しないため拒絶反応の起こる可能性が少ないのが利点です。

 更に、角膜内皮層のみが異常で、表層に濁りがない場合には、角膜内皮移植を選択します。特殊な方法で作成した内皮細胞層を含む薄い移植用の角膜を移植提供眼から作成します。角膜移植を受ける術眼の角膜内皮層を小さな切開創から特殊な器具を使用して剥離・除去し、用意した内皮細胞膜を小さな切開創口から挿入し、空気などを使用して接着させます。この術式により内皮細胞層は縫合することなく移植することができます。手術は安全で、患者さんの負担も少なく、視力予後も良好なため、本術式の適応が増えてきています。

 以上のように、病的状態の存在する深さと部位に基づいて、角膜全層の移植、表層または内皮層のみの移植という移植術式を選択しています。各手術の利点および欠点を理解し、患者さん一人ひとりの状態を確実に把握し、的確な手術を選択していくことが我々角膜移植医の責務であると認識し、実践していきたいと考えています。