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アイバンクだより Vol.22
少しでも多くの患者さんたちに光を取り戻していただくためには、多くの人たちのご協カとご理解が必要です。
愛媛大学医学部 眼科学教室 講師 白石 敦

 愛媛大学附属病院は全国でも有数の角膜専門病院として知られているため、愛媛県はもとより近隣県からも角膜疾患の患者さんが受診され、多くの角膜移植が必要な患者様も紹介していただいています。ご紹介していただき初めて来院される患者さんとお話をさせていただく機会も多いのですが、患者さんそれぞれにご自身の病気や、角膜移植に対する認識の違いがあることがわかります。中には、インターネットの発達により、情報をご自身でお調べになり「この大学は年間○○例の角膜移植をしているから安心です、私の病気は○○ですね、ここではこの手術方法をしていただけるのですか?」と医者顔負けの質問をされる患者様がいらっしゃいます。また一方で、“紹介されたから来たけど”「もう何年も見えないからとっくにあきらめている」「目を入れ替えるなんて怖くてできない」「もう歳だから手術なんか無理じゃろう」といった、治療を受ければ視力が回復するのにあきらめておられる方や、高齢を理由にあきらめておられる方が非常に多くいらっしゃいます。このような最初は良くご理解していなかった患者さんたちも、診察を重ねながら病気の状態や、角膜移植についての詳しいお話をしていくうちに、ご自身の病気の状態について良くご理解をされ、積極的に治療を受けていただけるようになってきます。

 こういった患者様のなかで、香川県の病院からご紹介していただいた80歳代の女性患者さんについてのお話をご紹介したいと思います。左眼が水疱性角膜症といって透明な角膜が水ぶくれのように濁り視力が低下しており、角膜移植の適応がある患者さんでした。初めて診察に来られたときには、“角膜移植”とはどんなに恐ろしい手術だろう?何年も待たないと手術してもらえないのだろうか?本当に見えるようになるのだろうか?自分は高齢だけど手術はできるのだろうか?と不安いっぱいのご様子でした。
結局角膜移植まで約1年お待ちいただいたのですが、その間診察の度に、“麻酔をするから手術はまったく痛みは無い”こと、“全身状態がよほど悪くない限り高齢でも手術は受けられる”こと、“角膜移植後は8〜9割は拒絶反応が無く経過する”ことを何度もご説明していくうちに、「一人暮らしをしているから、買い物はいつも自分で車を運転して行っていたのだけど、片目が見えなくなって運転ができなくて不自由で困る、早く移植したい」とお話されるようになりました。手術後2〜3ケ月がたち、視力が安定してきた時期でした。ご本人に余裕も見られるようになり、いつも一諸に来院される娘さんと「先生、手術の結果は、“はなまる”ね!」などと会話しているうち、「先生、この前運転したんやけど、ちょっと以前と感覚が違うなあ」と急にお話をされました。私は1〜2年間も車を運転していなかった80歳過ぎの女性が、“もう運転はしないのだろう”と勝手に思いこんでいたため、びっくりして、「手術後は以前と見え方が変わるので運転はゆっくり始めてくださいね!」と改めて手術後の注意についてお話をしました。85歳を過ぎた今もこの患者さんは毎日ご自分で運転をされて買い物に行かれているそうです。

 角膜移植により視力が回復する患者さんがまだまだ多くいらっしゃいます。少しでも多くの患者さんたちに光を取り戻していただくためには、多くの人たちのご協力とご理解が必要です。これからもアイバンクの活動を応援していただきますようお願いいたします。

イメージ 献眼をしていただいた眼球は写真にある“クリーンベンチ”という中が無菌状態に保たれた装置の中で、丁寧に透明な角膜とその周りの白い強膜といわれる部分だけを切り出して、特殊な保存液の中に入れて、移植手術まで保存されます。