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アイバンクだより Vol.23
臓器移植法改正でどう変わる?
角膜提供の意思を生かすためにできることは?
愛媛県の献眼登録数は決して少なくないのですが、実際の献眼はまだまだ不足しています。不足する原因は?有効な対策は?臓器移植法が改正され、県内の医療現場もその対応を探っています。貴い意思をムダにせず、正しく伝える仕組みとは?愛媛で移植医療にかかわる三人の専門家の方にお話をお聞きしました。
吉岡 哲男
愛媛県立中央病院 事務局長

愛媛県の保健福祉行政に長年、貢献され、愛媛県アイバンクの設立にも関与。
篠原 嘉一
愛媛県臓器移植支援センター
愛媛県移植コーディネーター

日本臓器移植ネットワークと連携し、専任のコーディネーターとして活躍中。
白石 敦
愛媛大学医学部
視機能再生学講座 准教授

角膜、結膜の専門医。最先端の再生医療に従事。
聞き手
(財)愛媛アイバンク理事長
岡本 茂樹
 
臓器移植法の改正で移植現場はどう変わる

司会:臓器移植法が改正されて脳死が人の死であると認められましたが、そのほかにも臓器移植に関する取り決めが変わるそうですね。

篠原:もともと臓器移植法は第三者への臓器提供を前提につくられた法律なので、移植希望者の中から必要性が高い人に優先して移植されてきました。この改正によって親族への優先提供が可能になり、配偶者、もしくは親か子への提供を指定できるようになったのです。お父さんが亡くなるときに息子さんに角膜をということが可能になります。

司会:角膜は、これまでも脳死ではなく心臓停止後に提供を受けていましたが、これについては今回の法律改正で変わった点はないのですか。

篠原:それはいままで通りです。腎臓と角膜については、臓器提供者の年齢制限もありませんし、提供者本人の意思表示も不要です。本人がアイバンクなどに登録していなくても、家族の同意を得られれば角膜を提供することがこれまで通りできます。今回の改正では、世界標準にならい、脳死状態で行う心臓などの臓器提供も、親の同意でその子どもから提供できるようになりました。

司会:臓器移植法の改正で、臓器移植支援センターでは対応が変わるのでしょうか。

篠原:法律が変わったばかりなので、具体的な動きはこれからですが、すでに県内3市町の保険証や協会健保の裏面に臓器提供の意思表示欄ができたりして、ドナーカードの所持率はだいぶ上がってきています。本年度は、愛媛FCに協力していただいて、オリジナル意思表示カードを作成し、配布していますが、なかなか好評です。今後もいろいろときっかけづくりを仕掛けていきたいと考えています。

司会:今はご目宅ではなく病院で亡くなられる方が多いと思いますが、愛媛県立中央病院では臓器提供を増やす収り組みや検討されていることはあるのでしょうか。

吉岡:県立中央病院としては、電子カルテの中に臓器移植の意思の有無を載せてはという意見が前からありますが、まだ全体の合意が得られていないのが現状です。先ほどのお話にもあったように保険証に記してあれば一目瞭然です。ただ、提供意思の不明な人に、事務的に臓器提供の意思確認をすると、怒り出す人がいそうで、なかなか口にできません。微妙な問題だけに、現場としてもなかなか踏み切れないのが実情です。

司会:臓器提供という選択肢を、もっと患者さん本人やご家族の方に知っていただく必要があるようですね。

吉岡:私がアイバンク設立のお手伝いをさせていただいたころは、実は角膜にしろ腎臓にしろ提供は年々増えていました。しかし、臓器移植法ができてから、逆に減少しています。これは脳死による臓器提供には、まだまだ心理的な抵抗が大きいからではないでしょうか。角膜や腎臓の場合、脳死ではなく心臓が停止してから摘出するということをもっと強調すべきではないかと思っています。心臓がまだ動いている状況で臓器提供の意思を確認しなければいけない脳死と違い、心臓死であれば亡くなられた直後でも比較的お声掛けしやすい。できるところから始めるというのも大事なことなので、県立中央病院としても積極的に取り組んでいきたいです。

設立23年―愛媛アイバンクを支えてくれたもの

司会:吉岡さんは愛媛アイバンクの立ち上げに関わられたということですが、振り返られていかがですか

吉岡当時、「アイバンク」の存在は知っていましたが、実際どういう内容かは理解していませんでした。アイバンク?角膜移植?何なのという感じで。財団として公益法人を立ち上げるに当たり、資金を集めてくださったのはライオンズクラブです。その2年後に作った腎臓バンクは県が中心となって資金集めをしました。ところが、腎臓バンクはできた後のバックアップが十分でなかったんです。愛媛アイバンクは愛媛県眼科医会がしっかりとバックアップしてくださり、今も存続しているのです。

司会:角膜の斡旋だけでアイバンクが維持できれば良いのですが、角膜を斡旋する数がまだまだ少ないので、アイバンクの運営には資金面や人的な面など、常にサポートしてくれる存在がないと難しいですね。

篠原:提供が増え、移植数も増えれば、待たれている方も可能性を感じられるでしょうし、アイバンクに登録する人も増えるでしょうね。

司会:そうですね。ボランティア精神だけではなかなか難しい。これまで移植医療に国も自治体も積極的に関わってこなかったのも、臓器提供が少ない一つの原因です。

角膜移植の進歩で可能になったこと

司会:角膜の場合は心臓停止後に摘出するということですが、死後何時間以内に摘出しないといけないのでしょうか。

白石:だいたい10時間以内に眼球を摘出しています。その後24時間以内に角膜だけ特殊な保存液に入れ、冷蔵して保存します。

司会:摘出した角膜は、1週間ぐらい保存できると言われていますが、すぐに移植しない場合はどうするのですか。

白石:1週間以内に使用しないものは冷凍保存します。ケガや感染、リュウマチなどの病気で角膜に穴があいて緊急手術になった場合は、保存しておいた角膜を使用します。できるだけ早く手術しないと失明、眼球摘出ということになりかねない場合がありますからね。

司会:最近の角膜移植手術は大変進歩していると聞きますが。

白石:角膜移植は、以前は角膜全体を移植していたのですか、最近では悪い部分だけを移植する角膜パーツ移植が主流になってきています。これによって拒絶反応の率も減り、乱視もかなり軽減されています。世界的にもいろいろなパーツ移植法がどんどん開発され取り入れられています。愛媛県でもたくさん行なわれるようになっています。

篠原:1人の提供から、複数の方に移植が可能ということですか。

白石:技術的には十分に可能です。できるだけ多くの人の目を救うためにも、角膜の有効な利用も大切なことです。

司会:今現在、愛媛県内で角膜移植を待っている方は何人ぐらいいらっしゃいますか。

白石:30人ほどいらっしゃいます。以前は100人近かったのですが、海外のアイバンクからご協力いただけるようになりましたので、待機数は減ってきています。ただ、愛媛県では年間に角膜移植が80件ぐらい行われています。これは全国的に見てかなり多いのですが、県内の角膜提供は10眼程度なので、角膜はまったく不足しています。今年、自国内の移植用臓器は自国でまかなうというWHOイスタンブール宣言が採択される予定です。いずれ日本も、角膜は自国内、さらに各県内で調達しなければならなくなる可能性もあります。

司会:愛媛アイバンクでは今後、愛媛県内の待機状況を把握して、より公平な角膜の配分ができるようにしていきたいと思っています。先ほどのお話のように、1つの角膜で複数の患者さんに手術が可能になるなど、提供していただいた角膜をもっと有効利用するためにも、より細かな待機患者情報が必要ですね。

提供意思を伝え、確認できる確かな仕組みづくり

吉岡:県立中央病院には救急救命センター(ICU)だけでも、年間延べ約3千人、入院患者だと、年間延べ約30万人近くの方が来院されています。そういう人、全員に臓器提供の意思について声掛けできたらなぁと。救急外来受診者や入院患者、全員に臓器提供の意思確認をするのです。もちろん、絶対に提供はイヤとおっしゃる方もたくさんおられると思います。そういう意思をきちんと把握することが、とっても大事だと思うのです。窓口で書いていただく問診票の中にその項目を入れることも検討しています。臓器提供の意思の有無を全員に確認するようなシステムになれば、電子カルテ化されているので、医療従事者はその意思を尊重して対処できます。

白石:医師会などが呼びかけて、受診の際に意思確認するのも一つの方法ですね。

篠原:最近は、病院機能評価のチェック事項に、「臓器提供意思を尊重しているか」という項目がありますから、病院運営のマニュアルに臓器提供を確認する体制整備が進んできています。意思表示カードを持っているかどうかを入院患者に一律に聞いている施設も徐々に増えてきているようです。不幸にして終末期になった場合に、意思表示カードを持っている方には漏れなく確認できる体制になっていければと思います。臓器提供の意思表示が遅れてしまい、その意思を尊重できないということは、避けたいです。

吉岡:コーディネーターにとっても、最初の声掛けが非常に難しいんですね。

司会:保険証での意思確認、病院に来られた人には窓口での意思確認、さらに医師による確認というように、各段階で提供の意思を反映させられる方法を取っていけるよう、行政・病院・医師の間のそういう意識の高まりが必要だと思いますね。愛媛アイバンクとしても、今後の課題を再認識いたしました。本日は貴重なご意見をいただき、ありがとうございました。

2010年1月8日・愛媛県医師会館にて(敬称略)