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アイバンクだより Vol.20
なぜ足りない?愛媛の角膜
登録だけでなく、提供医師を周りに伝えることが大切。

愛媛県では提供角膜数が数年前から減少傾向。
一方で角膜移植技術は大きく進歩し、西日本でも有数の高い角膜移植技術を持つ県になっています。
移植用角膜は、なぜ足りないのでしようか?
角膜移植の最前線に携わる4人の専門家にご意見を伺いました。

塩崎 千枝子
しおごき ちえこ
松山つばきライオンズクラブ会員。東京大学教養学部を経てハーバード大学教育学大学院修士課程修了 教育学修士
松田 久美子
まつだ くみこ
愛媛アイバンク副理事長。愛媛県眼科医会副会長。愛媛県立中央病院副院長。網膜硝子体が専門分野の眼科医。
原 裕子
はらゆうこ
愛媛大学医学部附属病院眼科助手。角膜専門医。角膜移植サージャン。愛媛アイバンク評議員。
谷口 嘉佳
たにぐち よしか
愛媛アイバンクコーディネーター。正看護師として病院勤務。愛媛アイバンク常勤介護支援専門員
聞き手
(財)愛媛アイバンク理事長
岡本 茂樹
 
格段に進歩した角膜移植技術

司会:愛媛県は、西日本有数の角膜移植技術を持つ県と言われていますね。

原:はい。愛媛大学をはじめ県内には角膜疾患の専門家が充実し、診断にしても治療にしても日本最高水準の治療が受けられます。特に角膜移植の技術は進んでいて、たった厚さ0.5mmの角膜の、例えば角膜表面だけが濁ってきた人には、濁った部分だけ移植することで、拒絶反応を抑えることができるようになりました。今は、悪い部分だけ移植することができるようになりつつあります。本当に、これは技術の進歩だと思います。

司会:しかし、移植用の角膜が不足しているそうですね?

原:そうなんです。角膜移植をすれば視力を改善できる患者さんは沢山待っていらっしゃるのですが、肝心の提供角膜がないと手術ができません。現状は、県外や海外のアイバンクから角膜を提供していただいて、なんとか手術を続けている状況です。角膜さえあれば、もっと困っている患者様に貢献できるのですが・・・・・・。

ドナーの意思確認が難しいという現実

司会:角膜の不足は全国的な傾向ですが、どうして提供が少ないのでしょう。愛媛県は眼球提供登録者は1万2千人もいらっしゃるそうですが。

原:いつも感じることは、眼球の提供の意思の確認がとても難しいということです。入院する際、「私は眼球提供登録をしているので、万が一の時は提供します」とおっしやる方は、ごく希です。病院にかかる際には目然な形で臓器提供の意思を表示してもらうのが、理想だと思うのです。また医療機関の側も、そういった意思を確認することができればと思います。

松田:実は、愛媛県立病院では、電子カルテに、患者さんの基本情報を入力する際、その情報の一つとして、臓器提供の意思の有無を確認することを検討しています。

谷口:ご家族に眼球提供のお話をするのは主治医ですから、ドナーのカルテに提供の意思についての情報があれば、その意思を生かすことができるわけですね。総理府が国民の意識調査をしたところ、現在、約35%の入が臓器提供の意思を持っているそうです。しかし反対に、臓器提供をしたくないと答えた入も30%おられます。前もって意思の確認ができれば、ドナーのご家族にもお話がしやすいのです。

松田:現在は患者様の担当医師が、ご家族に提供の確認をするのですが、ここにクッション役のような人がおられると、医師も話しやすいですね。またドナーの家族の立場からも、提供の意思表明をしやすいということがあると思います。それと眼球提供登録者の方は必ずご家族に日頃から提供についてお話しておいていただくことも大事です。入院中は本人・ご家族ともに肉体的・精神的に大変なので、つい、提供の意思表明をしそびれてしまうということもありそうですね。

谷口:「提供したい」という意思をしっかりと受けとめて、移植に生かすには、医師、アイバンク、家族の緊密な協力が絶対的に必要ですね。

松田:そういう意味でも、健康保険証やカルテに臓器提供の意思表示の項目があることは、とても大切だと思いますね。

谷口:献眼してもいいなぁと漠然と思っている人もたくさんおられます。そういう人に、一歩進んで欲しいわけです。自分が死んでも、角膜は誰かの人生を照らしていると考えるのは、日本人の考え方方にもすごく響くと思うのです。

司会:米国では、日本に比べ移植が盛んですが、アメリカ人だけが奉仕精神が旺盛で、日本人は奉仕の精神がないというわけでは決てないですよね。

原:そうです。臓器移植をスムーズに進めるシステム全体が、まだまだ日本はうまく機能していないというのが一番の原因だと思います。

ますます高まるコーディネーターの役割

谷口:愛媛県では、アイバンクコーディネーターだけでなく、臓器提供ネットワークのコーディネーター、県から任命された院内コーディネーターが主な病院にいますので、臓器提供は以前より随分、スムーズにはなってきています。

司会:ドナーである患者さんは絶望的な状況にあるのですから、とても弱い立場にあるわけで、デリケートに接する必要があります「目はいいけど、腎臓はイヤだ」というようなケースもあるでしょうし。

谷口:大切なのは「説明」であって、「説得」であってはいけないと思うのです。「説得」では、こちらの意図が強調されてしまいますから、インフォームドコンセントではなくなる。あくまでも、最期の選択肢の一つに入れておいていただき、その中から家族の方に、提供するかどうかを選んでもらうというのが、本意です。そういう繊細な交渉を、今まではお医者様に任せてしまっていました。その限界が来ているわけです。医療現場は、あくまでも治療が目的であり、移植のコーディネートとはまったく異質のものですからね。

松田:それに、ドナー自身がいくら提供したいと思っていたとしても、家族の入が反対だと難しい。やはり、地域や社会全体が角膜や臓器移植に対して、今以上に理解を深める必要があります。遠回りではあっても、地道な啓発活動が最も堅実な道筋だと考えます。

「登録」=「献眼」ではない現状を再確認

司会:啓発活動は、これまでもライオンズクラブの方々にはさまざまな部分でご協力していただいています。

塩崎:私は女性だけのライオンズクラブに入って15年です。その中で、「3献運動」という活動があり、献眼・猷腎・骨髄移植の3つについて、ことあるごとにドナー登録キャンペーンを行っています。国際的には「視力ファースト」という運動があり、発展途上国における栄養不足や衛生問題が原因の子どもたち、ホームレスの視力障害についても支援金を送ったりしています。

司会:これらの活動は世界的にも高い評価を受けておられよすね。視力を守るという活動は、ライオンズクラブの主要な取組の一つというわけですね。そのように、いろいろと活動されているにもかかわらず、愛媛県内での献眼数が伸びないという実状は、われわれアイバンクや医療従事者が従来のやり方をかえていかないといけないということでしょう。そのあたりで、要望やふだん感じておられることはありませんか?

塩崎:昨年、愛媛アイバンク20周年記念の講演会に参加させていただいたとき、提供希望者も角膜を必要とする人も、すごく大勢いるのに、角膜移植は年間10例くらいしかないと聞いて、両者のニーズがうまくマッチしていないと感じました。私たち夫婦も眼球提供登録をして10年以上になりますが、意思表示カードが行方不明とか、万一のときの連絡先などの基本的な情報が身近にありません。そんな現実を、記念イベントに参加させていただくことで気づかされました。登録するだけでは、献眼まで辿りつけないということを思い知らされたのです。

松田:なるほど。たとえば、夫婦で登録されている場合は、夫婦の間できちんと話をしておきましょうというようなアイバンク側からの働きかけや、定期的なメッセージが必要ということですね。

いざというときスムーズに提供できる仕組みは?

塩崎:万が一のとき、残された者のために連絡先一覧を、冷蔵庫など、常時、目にする場所に貼っておく必要がありますね。また、アイバンクのホームページでも、角膜や臓器を、今すぐ提供したいのだけど、どこに、どう連絡をすればいいの?みたいな情報も欲しい。ライオンズクラブでは、いざ提供したいという段階になった場合、即時に会員に連絡が行きますが、夜間など、連絡がつきにくい場合がないとはいえません。

谷ロ:アイバンクでも、24時間通じるホットラインの体制ができたばかりです。

塩崎:そういった連絡先を記した印刷物を大きな病院の控え室に置いておいたり、ポスターを掲示したり。患者さんにとって心穏やかでない病院の待合室となれば、デリケートな問題だとは思いますが・・・。

松田:活宇での説明が難しい領域ですから、ぱっと見て、さりげなく手にするという人もいるでしようが、人の心に土足で踏み込むような表現ではない、心遣いの行き届いたものがいいですね。

塩崎:アイバンクのニュースレターを送付される際に、臓器移植の意思表示シールなどを同封していただいてはどうかと思います。

谷口:それはいいアイデアですね。年度ごとにお送りすれば、その年の提供の意思を反映できますし。去年は提供するつもりだったが、今年はイヤだという意思を改めて表示しなおせる。

松田:リマインドがとても重要だということですね。

塩崎:貼りなおさない人は、他のお友達にそのステッカーを差し上げれば広がりますし(笑)

谷口:2007年からは政府管掌の健康保険証には臓器提供の意思を記す箇所ができます。また、健康保険証に貼るシールもできていて、すべての保険証に貼っていただけます。また、アイバンクの登録は、都道府県単位ですが、愛媛で登録している方が東京で亡くなられても、愛媛のアイバンクに連絡すれば、東京のアイバンクを通じて東京で提供していただけます。ただし、移転した場合は、移転先の県で再登録の必要があることも忘れないで欲しいですね。

司会:なるほど。いろいろお話を伺って、地道な啓発活動の積み重ねやアイデアによって、光が見えてくるように思えました。今日は、いろいろとお話しいただきありがとうございました。

2006年11月6日・愛媛県医師会館にて(敬称略)